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東京地方裁判所 昭和46年(ワ)4777号 判決

原告

村上敏幸

原告

上田学

右両名訴訟代理人弁護士

加藤康夫

外一名

被告

全逓信労働組合

右代表者中央執行委員長

石井平治

右訴訟代理人弁護士

東城守一

外三名

主文

原告両名が被告組合の組合員としての資格を有することを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一、原告ら

主文と同旨の判決。

二、被告

「原告らの請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決。

第二  当事者双方の主張

一、請求の原因

1(一)  被告組合は、郵政労働者をもつて組織する組合員数約二三万名の労働組合であり、その組織は、中央本部を頂点とし、全国一一の各地方郵政局管轄地域ごとに置かれる地方本部、各府県ごとに置かれる地区本部、その下に置かれる支部をもつて構成され、別に組合活動の補助組織として地区本部および支部ごとにそれぞれ青年部および婦人部が置かれている。そして、被告組合の福岡中央支部(以下、単に「支部」という。)は、福岡中央郵便局、福岡西郵便局、筑紫郵便局および右三局区内の特定郵便局で働く組合員をもつて構成され、被告組合規約およびこれに基づく被告組合福岡県地区本部(以下、単に「地区本部」という。)規約の適用を受け、決議機関として支部大会および支部委員会、また、執行機関として支部執行委員会を有している。

(二)  原告両名は、いずれも福岡西郵便局郵便課に勤務する郵政労働者であつて、それぞれ支部に所属する組合員である。なお、原告村上は、昭和四二年九月から同四四年一二月四日まで支部執行委員を、また、原告上田は、昭和四二年九月から同四四年一二月四日まで支部青年部常任委員をそれぞれ歴任している。

2  被告組合は、原告らが昭和四五年二月一七日付中央本部指令第二七号による再登録申請書を所定の期限までに提出しなかつたことにより自動的に被告組合の組合員としての資格を喪失したと主張して、原告らを組合員として取り扱わない。

3  よつて、原告らは、被告組合の組合員としての資格を有することの確認を求める。

二、請求の原因に対する認否

請求原因事実は全部認める。

三、抗弁

被告組合においては、組織的危機の回避のために確立された再登録制度がある。そして、原告らは、被告組合がその組織維持の必要から支部の再建に不可欠の方策として昭和四五年二月一七日付中央本部指令第二七号により同月二二日を申請書の提出期限と定めて実施した支部組合員全員に対する再登録申請手続に反対して、その申請書の提出をしなかつた結果、右期限の経過とともに自動的に被告組合の組合員としての資格を喪失したものであるが、その経緯は、次のとおりである。〈1ないし3省略〉

4 なお、被告組合においては、従前にも組織的な危機の生じたことがあり、これを回避するために支部執行権の停止・支部組合員の再登録を行なつた先例がある。このような経過のもとに、本件当時再登録制度が確立されていた。そして、その経緯は、次のとおりである。

(一)  東京地区本部羽田空港支部の場合

羽田空港支部執行部は、かねてから全国大会で決定された被告組合の運動方針を「戦わない方針」であるとしてこれに従わず、また、三六締結権の行使についても、中央本部の指令に違反して、長期間に亘り締結せず、独善的な活動を展開していた。このため、直接の上級機関たる東京地区大会および同地区本部執行委員会から再三に亘る注意がなされ、被告組合中央執行委員会からの勧告もあつたが、同支部執行部は、依然として組織の決定や指導に従わなかつた。かえつて、中央本部指令や指導方針を守れと主張する組合員に対して、徹底的な個人攻撃を集中する有様であつた。昭和三八年一〇月に至るや、同支部組合員約二〇〇名中の過半数に及ぶ一〇六名が、被告組合自体の方針に反対するわけではないが、同支部執行部の機関決定無視・非民主的独善的指導・三六協定の長期無締結等には耐えられないという理由で、脱退届を提出した。また、同支部執行部の右のような指導の結果、職場での暴力事件が頻発し、当局の行政処分も多発するという混乱状態を招くに至つた。そして、遂には、職場委員会の決定方針が一般組合員から拒否されるという異常事態が起きて、執行部の総辞職という組織的壊滅状態になつた。

ここにおいて、被告組合中央執行委員会は、事態をこのまま放置すれば組織の自然崩壊という最悪の段階に立ち至るものと判断して、同年一一月二七日、規約第二三条による緊急事項処理の権限に基づき、指令第一一号(「1 同支部執行権を停止し、東京地区本部に一任する。2 同地区執行委員会は、同支部全組合員に対し規約を承認する旨の確認書を提出させる。3 同支部旧執行役員に対し権利停止の制裁を行なう。」)を発したのである。

その結果、ほぼ全員に当たる一九八名が規約確認書を提出し、同年一二月一四日に再建大会が開催され、漸く同支部の組織的危機を回避することができた。その後、右指令やこれに基づく処置については、誰からも異議は出されていない。

ただ、同支部の場合は、組織的混乱収拾のために被告組合中央本部が指令を発して行なつたのは、「規約確認申請」と呼ばれているものであつて、その申請書不提出の効果として組合員資格の喪失が生じることになるか否かは、右指令上では明らかでない。従つて、これは、再登録を問題にするときには、先例とはなりえないものである。

(二)  東京地区本部石神井支部の場合

同支部では、昭和三九年始めから同四〇年一一月頃にかけて、執行部が被告組合の運動方針・組織決定に公然と違反する諸活動を展開した。例えば、被告組合の機関紙であつて組合員全員に無料で配布すべき「全逓新聞」を同支部内に配布せず、東京地区本部からの動員要請をも殊更に無視して応じない反面、被告組合と支援・共闘の関係のない外部組織の活動に同支部組合員を動員し、組合費の一部を中央本部に納入せず、ほしいままに費消し、同支部定期大会議案書の内容を同支部執行委員会の討議に付さず、全国大会決定に違反する内容の印刷物を同支部に配布し、同支部の予算編成を同支部大会の討議に付することを怠り、全国大会決定の運動方針や指導方針を同支部組合員に周知指導しないなどのことがあつた。しかも、同支部執行部は右の点に批判的意見を述べる同支部組合員に対してつるし上げ的行動をとつたので、同支部内には自由に意見も述べられないような非民主的空気が蔓延し、組合員の同支部組織に対する不信感と不満は無視しえない程に高まつた。このような混乱に乗じて、被告組合の組織の切崩しを狙う郵政省当局の弾圧の動きも察知された。被告組合の中央本部中央執行委員会は、同支部の民主的運営を確立し、組織統一を守るため、同支部全組合員から忌憚のない意見を聞き、その結果に基づき同支部執行部の方針を点検することとして、同年一一月一七日から一斉に職場オルグに入つたが、同支部執行部の妨害活動のため、実効をあげるに至らなかつた。

ここにおいて、中央執行委員会は、同支部の組織が崩壊の危機に直面していると判断し、非常措置として、同月二〇日付の指令第七号(「1 同支部執行部の執行権を停止し、新たに執行部が選出されるまでの間同支部の運営管理を東京地区本部に一任する。2 同支部組合員全員に対し、同地区本部を通じて、中央執行委員会宛に、被告組合の規約・綱領・運動方針・機関決定・指令を忠実に遵守して行動することおよび被告組合員として再登録することを確認した申請書を同月二四日までに提出させる。3 中央執行委員会は、この申請に基づき、再登録申請を承認するか否かを審査のうえ決定し、この承認を与えたもののみを同支部組合員として認定する。4 同地区本部は、右認定に基づき、同月末日までに同支部執行部を選出し、同支部組織の確立を図る。」)を発した。

右指令に基づき、同支部の組織再建活動が行なわれた結果、同支部の全組合員二〇三名が再登録申請を行ない、このうち中央執行委員会により承認された一五七名をもつて同年一二月六日に同支部大会が開かれ、新役員が選出されて、同支部の組織的混乱は一応の終止符を打つた。

その後、再登録申請を拒否された者からも、その他誰からも、右の組織運営について異議の申出はなされていない。

(三)  東京地方本部練馬支部の場合

同支部では、昭和四一、二年頃から石神井支部の場合と同様の混乱状況が見られ、特に、同支部執行部の統制力の欠如により、組合員と当局管理者との暴力的衝突が頻発した。その結果、同支部組合員の同支部執行部に対する不信不満の増大、同支部の諸活動に対する消極性・無関心・反感の蔓延は、組織崩壊寸前の危機と判断された。そこで、中央執行委員会は、この危機を回避して同支部の組織を再建するための非常措置として、昭和四三年八月七日付で指令第四八号(「1 被告組合規約第四八条に基づき、同支部役員全員の権利を別途復権を認めるまでの間停止する。2 同支部組合員全員につき、東京地方本部を通じて、中央執行委員会宛に、石神井支部の場合と同趣旨の再登録申請書を提出させる。3 中央執行委員会は再登録申請につき審査、決定、認定をする。4 同地方本部は、右認定に基づき同月二五日までに練馬支部大会を召集し、同支部組織の再確立を図る。」)を発した。

右指令に基づき、同支部の組織再建活動が行なわれた結果、同支部組合員の大多数である二九七名が再登録申請をし、最終的には一九二名が組合員として認定され、同月二三日に再建大会が開催されるとともに、新役員が選出された。そして、石神井支部の場合と同じく、何らの異議の申出もなかつた。

(四)  兵庫地区本部西阪神支部西宮郵便局各分会の場合

同支部は、昭和四一年頃、西宮、芦屋、三田および宝塚各郵便局勤務の被告組合の組合員約六二〇名で組織されていたが、そのうち西宮郵便局各分会においては、同年春頃から一部の組合員が被告組合の運動方針に従わず、一撥的な職場闘争を展開し、このため組合員間の対立が進行するようになつた。

当時、兵庫地区本部管内では、郵政省当局の被告組合に対する敵視政策、第二組合造りを背景にして、各郵便局で組織問題が顕在化していたが、遂に三田および宝塚郵便局では組織が分裂して第二組合が結成された。そして、このままでは分裂の嵐が各郵便局に波及して、被告組合の組織全体が崩壊しかねないと予想されたので、中央本部はもとより同地区本部としても、管内の組織問題については、万全の態勢を敷いて対処していた。特に、西宮郵便局は、同地区本部傘下でも、神戸中央郵便局に次ぐ主要局として、三田、宝塚両局に続く組織攻撃の可能性が大きく、同地区本部が神経をとがらせていた局でもあつた。このような状況下で、西宮郵便局に前記のような問題が組織内部から出てきたことは、被告組合として見過すことのできないものを孕んでいた。因みに、当時の同局長のもとで組合員に対する脱退勧奨、利益誘導、配転等の利益不利益扱い、支配介入等の不当労働行為が続発し、その結果、同年一二月三日遂に第二組合が結成されるに至つた。

そこで、同地区本部は、同年春から同局問題を重視して、直接にまたは同支部執行委員会を通じて運動の是正を図つてきたが、一向に改善されず、かえつて「スクラム」と称する発行責任者不明の職場新聞が配布されたり、その反対に全逓新聞、同地区・同支部情報等の被告組合の正式の機関紙が配布されなかつたり、また、職場抗議に名を借りた役付組合員に対する集団抗議が行なわれたりするなど組合内部の矛盾拡大行動が相次いで行なわれ、そのため同年九月頃には主事や主任らの中間管理者を中心とする脱退者が続出するに至つた。しかも、脱退者の言い分は、被告組合の運動方針自体に異議があるわけではないが、職場の一部グループの運動にはついていけないというものであつた。

このような事態に至つたため、同地区本部は、同支部執行部と協議のうえ、昭和四一年九月三〇日に全逓兵庫企第二四号指導文書(「1 西宮局第一集配分会の全職場委員を解任する。2 職場新聞の発行を停止する。今後の分会運営については、当分の間、同地区本部執行委員会が直接行なう。」)なる緊急措置をもつて組織の再建を図つたが、一部の分会によつて右指導が拒否され、同支部および同地区本部執行委員会の再検討を迫られて、結果的にはその目的を達することができなかつた。

そこで、指示を求められた中央本部は、直ちに中央執行委員を現地に派遣して、事実調査をしたところ、その結果は、同地区本部の判断と同じく、このまま推移すれば、組織の崩壊は必至と見られた。そこで、中央本部は、右の調査の結果に基づき、同年一〇月六日規約第二三条により緊急非常の措置として、指令第一〇号(「1 西宮郵便局各分会全組合員の組合員資格を一時停止する。2 右組合員から同年一〇月一一日までに組合員資格の再登録申請を求め、その審査を通じて承認を受けた組合員をもつて各分会の再建を行なう。3 その間、各分会の運営・管理権は同地区本部の行なうものとする。」)を発した。

これによつて、同年一〇月二五日までに三四三名の組合員中三三二名が再登録申請を行ない、審査の結果、二四七名が組合員資格を承認され、その余は保留されたが、その後の審査の進展により、第二組合に走つた者や退職した者を除く殆どの者が組合員資格を承認された。このようにして、漸く西宮郵便局各分会の組織の再建が行なわれたのである。

被告組合の運動方針に従わず、職場で独善的な運動を展開して組織を混乱に陥し入れた職場の一部組合員も再登録申請に応じ、その審査を受けて、一部の者は組合員資格を承認され、少数の者は保留されたままになつたが、いずれにしても被告組合の中央本部の指令に従わず、その無効を主張する者はなかつた。

(五)  再登録制度の確立

(1) 以上のとおり、被告組合は、下部組織の混乱に際し、組織の崩壊を食い止めるために、昭和三八年一一月二七日付中央本部指令第一一号による羽田空港支部の規約確認申請に始まり、昭和四〇年一一月二〇日付中央本部指令第七号による石神井支部の再登録申請、昭和四一年一〇月六日付中央本部指令第一〇号による西阪神支部西宮各分会の再登録申請および昭和四三年八月七日付中央本部指令第四八号による練馬支部の再登録申請に至る一連の方策を実施したが、これらの処置についてはその都度中央委員会および全国大会の全会一致の承認を得ている。従つて、福岡中央支部について本件の再登録指令が発せられた昭和四五年二月頃までには、組織混乱の収拾策としての再登録制度が確立され、組合員一般の法的確信によつて支持されるに至つていた。

さればこそ、昭和四五年二月一七日付中央本部指令第二七号が発せられるや、早くも翌一八日には、再登録申請書の提出を拒否した支部組合員のうち福岡中央郵便局所属の八七名が全福岡中央郵便局労働組合を結成し、また、同年三月四日には、再登録申請書の提出あるいは審査を拒否した者約二〇名が福岡中央郵便局労働者労働組合を結成するに至つたのである。

(2) そして、右のようにいわば慣習法として成立した組合員再登録制度については、その後規約第二三条第三項に、中央執行委員会の権限として明文化され、その規約改正は、昭和四九年八月二八日の全国大会において、全会一致で可決されている。

四、抗弁に対する認否〈以下省略〉

理由

一請求原因事実は、当事者間に争いがない。

二ところで、原告両名が、被告組合の中央本部昭和四五年二月一七日付指令第二七号により同月二二日を申請書の提出期限と定めて実施した支部組合員に関する再登録申請に反対し、再登録申請書の提出をしなかつたことは、当事者間に争いがなく、そして、被告は、原告両名が右再登録申請をしなかつたことにより被告組合の組合員としての資格を喪失したと主張しているので、まず、右再登録申請に至るまでの経緯について検討する。

1  次の諸事実は、いずれも当事者間に争いがない。

(一)  被告組合が昭和四〇年以来、総対話・納得づくの運動、団交重視の闘いを行なつてきたことおよび昭和四三年暮頃から福岡中央郵便局内に「職場を明るくする会」が結成されたこと。

(二)  支部執行部が昭和四四年一一月一三日早朝「当局の飼犬に転落し、組織を喰いつぶす“職場を明るくする会”を粉砕せよ!!」と題したビラを配布したこと。

(三)  地区本部が支部執行部に対し前項のビラ配布の中止を指示したこと、一一月一五日に開催された支部闘争委員会において、支部から地区本部に対し被告主張の如き三点の釈明要求がなされたこと。

(四)  地区本部が調査のうえ被告主張のような一一月二〇日付逓福組第一四号の指導文書をもつて支部の前項の釈明要求に答えたが、支部がこれに対してもさらに質問を重ねたこと。

(五)  支部執行部が、一一月二四日沖永地区本部書記長および大坪地区本部組織部長の出席のもとに開かれた支部闘争委員会において 前項の地区本部の文書指導の撤回を迫り、これを撤回しなければ支部の臨時大会を開催する旨通告したこと、これに対し、沖永地区本部書記長および大坪地区本部組織部長が、その対策を地区本部執行委員会に諮るため、右文書指導を一時保留することにしたこと、同月二六日地区本部執行委員会が開催され、地区本部の従来の指導方針が再確認されるとともに、同日中央本部に右経過が報告されたこと。

(六)  中央本部が一一月二六日案納中央執行委員を福岡に派遣して調査に当たらせたこと、そして、中央本部が同年一二月一日被告主張のとおりの中央本部指導九項目を発したこと、案納執行委員が同日の支部闘争委員会において支部執行部に対し右指導九項目を伝達し、これに対し、支部執行部が、不満ではあるが従わざるをえないという見解を表明したこと。

(七)  今永支部長が、一二月三日午前一〇時頃丸山地区本部執行委員長に対し、支部執行委員および青年部常任委員各一名を除く支部役員二七名の辞表を一括提出したこと。

(八)  中央本部が一二月四日に同日付で被告主張のような指令第二二号を発したこと、「反合理化労働者連絡協議会」という団体名で被告主張のようなビラが配布されたこと。

(九)  支部組合員を対象に旧執行部支持の署名活動が行われたこと。

(一〇)  被告組合が昭和四五年二月八日から同月一一日までの間被告主張のような団結権確認の署名活動を行なつたこと、そして、この署名活動の期間をさらに同月一六日まで延長したが、その成果ははかばかしくなかつたこと。

(一一)  被告組合が同年二月一七日に支部組合員全員に対して被告主張のとおりの内容をもつた中央本部指令第二七号を発したこと、被告組合の規約第二三条第一項、第二項、第四四条、第四八条第一項に被告主張のとおりの規定があることおよび原告らが被告主張のような権利停止の仮の制裁を受けたこと。

(一二)  支部組合員のうちの八七名が同年二月一八日全福岡中央郵便局労働組合を結成したことおよび支部組合員の他の約二〇名が同年三月四日福岡中央郵便局労働者労働組合を結成したこと。

(一三)  同年二月一八日から同月二二日までの間に被告主張のとおり再登録申請書の提出があり、翌二三日から同年三月二二日までの間にその審査が行なわれ、同月三日再登録組合員五二八名の氏名が公表された後、これら組合員によつて役員選挙が行なわれて、同月一四日に第一五回臨時支部大会が開催されたこと。

(一四)  原告両名が再登録申請書の提出を拒否したこと。

2  右の争いのない事実に、〈証拠〉を総合すると、次の事実を認めることができる。

(一)  指令第二七号を発するまでの経緯

(1) 地区本部は、昭和四〇年以来、その傘下の各支部に対し、被告組合の第一七回全国大会で定められた方針に基づく、総対話・納得づくの運動、団体交渉重視の闘いという運動路線を積極的に推進してきたが、支部執行部は必ずしもこれに従おうとせず、昭和四二、三年頃から両者の間に闘争戦術をめぐる意見の相違が拡大し、中でも、昭和四四年五月一二日に福岡中央郵便局へ自動区分機が搬入されたことをめぐつて、その阻止闘争に関する支部執行部と中央本部および地区本部との見解が一致せず、その後の第四九回地区委員会において、地区本部案が否決され、かえつて支部修正案が採択されたこともあつて、支部の中にはこれをもつて中央本部の反合理化闘争方針が破綻したと評するものまで現れて、地区本部の支部執行部に対する組織指導上の断層が発生した。一方、このような支部執行部に対する支部組合員の不満の現われとして、昭和四三年暮頃から、福岡中央郵便局内に、「職場を明るくする会」という批判グループが結成された。そして、右会は、同局第一集配課員を中心とした約五〇名の組合員で構成されており、そのうち約半数が主任クラスで占められていたが、同会の結成目的は、支部の組合運営が、被告組合の前記運動方針に反するとともに、一部の活動家中心となつているので、それ以外の一般組合員をも含め民主的に討議したうえで、組合運営が行なわれるようにしたいというものであり、かつ、同会は、結成以来、支部執行部の組合運営について批判的な活動を行なつてきた。

(2) そこで、支部執行委員長今永公男は、「職場を明るくする会」は支部の指導に従わないものであつて、その活動を放置しえないと判断して、昭和四四年一一月一二日、地区本部執行委員長丸山又三に対し、「職場を明るくする会」は被告組合に敵対する感があり、組織から脱退する虞れがあると述べて、その対処方を相談した。その結果、丸山地区委員長は、右会に結集していた組合員が支部から脱退することがないよう、翌日にも右会の中心的な者に会つて話しをするということになつた。しかるに、支部執行委員会は、翌一三日、「当局の飼犬に転落し、組織を喰いつぶす“職場を明るくする会”を粉砕せよ!!」と題するビラを福岡中央郵便局および同西郵便局内で組合員に配布した。そして、支部執行委員会が右ビラの中において主張した主な点は、1「職場を明るくする会「の行なつている執行部批判は全くの口実であり、同会は戦線の混乱、分断、闘いからの逃避のための全くの功利的集団でしかない。2「職場を明るくする会」の首謀者は、「支部は本部方針を無視して運動を進めている」と組合員をあおり、そそのかし、「地区本部、中央本部が要請する動員以外には参加しない」とか、「勝手に腕章闘争をやつている」などとでつちあげるとともに、組合決定に対していろいろな言い掛かりをもうけて闘争を怠つてきた。3最近公然と組織脱退を打ち出し、その分裂策動も、福岡中央郵便局に止まらず、筑紫郵便局にもオルグを行ない、一〇名中の七名を脱退させているというものであつた。

(3) 丸山地区本部執行委員長は、右のようなビラが撒かれたのでは「職場を明るくする会」の人たちと話し合うことすらも困難になると判断して、今永支部長に対し、「折角門戸を開いて話し合おうとしているのに、このようなビラを撒けば、実質上会見することをも困難にする」と忠告し、「職場を明るくする会」のメンバーをも含めて職場闘争を進めるように指導した。ところが、一一月一五日に、支部執行委員および支部青年部常任委員をもつて構成される支部闘争委員会が開催され、地区本部から沖永書記長および大坪組織部長が支部を指導する立場で同委員会に出席していたが、同委員会においては、「職場を明るくする会」についての地区本部の指導の当否をめぐり長時間に亘る議論が戦わされ、その席上、支部委員から地区本部に対し、右指導の撤回を迫るとともに、「職場を明るくする会」に対する地区本部の態度を明確にすること、同会に対する地区本部の責任を明らかにすることおよび同会に対する指導を明確にすることの三点について釈明要求が行なわれた。

(4) そこで、地区本部執行委員会は、支部闘争委員会からの右釈明要求に対して事実調査を開始し、一一月一六日頃、地区本部の沖永書記長および大坪組織部長の両名が、「職場を明るくする会」の中心的メンバーである大河内、古野ら約一〇名の者と会見して、事情聴取を行なつた。この席上、大河内らから、支部執行部は具体的な闘争の進め方について自分らの意見を受け入れず、本部あるいは地区本部の指導方針を逸脱しているのではないかという意見が出された。そこで、地区本部は、右調査の結果を総合的に検討した結果、「職場を明るくする会」が結成された最も大きな原因は、支部執行部が団体交渉重視と総対話・納得づくの運動という被告組合の運動方針を守つていないことにあると判断したので、執行委員会の決定を得たうえ、同月二〇日付逓福組第一四号の指導文書をもつて、支部執行部からの前記釈明要求に応答するとともに、「職場を明るくする会」の対策につき支部執行部に対する指導を行なつた。そして、この指導の要点は、「職場を明るくする会」が分裂策動を行なつているという事実は認め難く、右会が発生するに至つた主な原因は支部執行部の組織運営の誤りにあることを指摘するとともに、総対話・納得づくの運動路線に立ち返つて組合民主主義を回復し、内部対立を克服せよと指示するものであつた。しかし、支部闘争委員会は、これに納得せず、同月二二日付逓福中発第六〇号をもつて、右回答につきさらに詳細な質問をした。

(5) 地区本部は、一一月二四日に開催された支部闘争委員会に地区本部の沖永書記長および大坪組織部長を出席させ、支部闘争委員会からの右質問について地区本部の見解を明らかにした。しかし、その席上、前記の地区本部の指導文書をめぐつて、午前一〇時頃から午後四時頃までの長時間議論が交されたが、議論は平行線を辿つたまま結論を得ることができなかつた。のみならず、最終的には、支部闘争委員会が、右二名の地区本部役員に対し、右指導文書の撤回を迫り、これを撤回しなければ支部臨時大会を開催して総辞職をしなければならないという態度を表明するに至つた。そこで、右二名の地区本部役員は、右指導文書は地区本部執行委員会で決定したものであるから撤回することはできないが、しかし、これを撤回しなければ、右指導文書を支持する組合員とこれに反対する組合員との間で対立抗争が生じ、その結果、支部内が分裂する危険もあるので、この問題については地区本部執行委員会においてさらに慎重に検討する必要があると判断して、右指導文書については一応保留するとの見解を述べた。

(6) 地区本部執行委員会は、一一月二六日、支部闘争委員会の右報告を基に地区本部の支部に対する指導の取扱いについて検討した結果、支部に対する対策としては、前記の逓福組第一四号の指導文書どおりに指導する以外に方法がないとの結論に達し、その方針を再確認した。そして、地区本部の沖永書記長は、同日、中央本部に対し、「職場を明るくする会」をめぐつて地区本部と支部との間に発生している事態の経過を報告するとともに、それに対する指導を要請した。右報告を受けた中央本部は、直ちに、中央執行委員会を開催したうえ、組織部担当の案納勝中央執行委員を福岡に派遣して実情調査を行なうことを決定し、同日同執行委員を福岡に派遣した。そして、同執行委員は、まず同日に予定されていた支部闘争委員会を延期させたうえ、同日夜、地区本部執行委員会を招集し、「職場を明るくする会」に関する地区本部のこれまでの見解と組織状況とについて報告を受け、さらに同月二九日までの間に支部の三役、「職場を明るくする会」の主要メンバー、一般の役職・中高年層の組合員および支部青年組合員からそれぞれ事情を聴取した。その結果、案納執行委員は、支部の組織紛争上の問題は、単に地区本部と支部との「職場を明るくする会」に関する見解の相違や同会と支部執行部との対立だけにあるのではなく、より根本的にいかにして組合意識の弱い一般中高年層と組合意識の高い者とを一緒にして支部の組織を維持していくかという日常の職場活動、総対話の不足にあり、この点についての指導をせざるをえないとの結論に達した。そして、同執行委員は、同月三〇日に開催された中央執行委員会において以上の調査結果を報告したところ、中央執行委員会は、年末闘争を目前にして組織対策をめぐる地区本部と支部との意見の対立した状態が継続することは好ましくなく、郵政当局と第二組合に利用される欠陥をも生みかねないと判断し、これ以上事態の混乱を拡大させないために、地区本部と支部とが一体となつて事態の解決に当たるべく、同年一二月一日付をもつて、九項目からなる指導を発した。そして、その内容は、1一二月一日以降当分の間、支部における職場闘争および組織対策については地区本部執行委員会の指示、指導による。2役付組合員および「職場を明るくする会」に対する組織対策は、当分の間地区本部執行委員会が当たる。従つて、支部は、これらの対策を中止する。3支部内における組織対策上および闘争指導上の問題については、中央本部が、引き続き調査を行なう。当面地区本部執行委員長に調査活動を委嘱する。4地区本部執行委員長は、支部における被処分者(行政処分による解雇者、停職者、刑事事件による休職者を含む。)を掌握し、その諸行動について指示を行なう。従つて、被処分者はその指示に従い、諸行動の結果を地区本部執行委員長に報告する。なお、これらの指示に反し、組織の方針に違反した行動があつた場合には、中央本部は、地区委員長の報告に基づき必要な措置をとる。5闘いの大衆化を図り、納得づくの運動路線を展開することによつて、職場の一集団的運動形態による不団結の要因を克服するため、職場内においては組合員相互間の嫌がらせや、暴言、暴力に亘るような行為は一切排除するとともに、総対話運動を強化する。6最近特に当局の挑撥をうけて組織の切崩しに利用されているのは刑事事件と暴力事件に名を借りた行政処分の多発である。従つて、今後の職場闘争の指導に当たつては当局の挑撥に乗ぜられるような行為は厳に戒め、組織の自律活動を強化する。7今後刑事事件および行政処分による被処分者が出た場合には、犠救・制裁委員会が直接調査を行ない、その結論が出るまでは犠救規定による一切の権利を保留する。8労働組合の支部と政党支部とはその性格を明確に異にする別人格である。労働組合の組織運営について労働運動と政治運動とを混同し、大衆との関わりなどに無頓着に労働組合の組織問題に主観的批判を行ない介入するが如き行為は、何人であろうとも容認することができない。9以上の本部指導に違反した場合には、中央本部は、支部に対し組織対策上の必要な措置をとるというものであつた。

(7) 案納中央執行委員は、同年一二月一日に開催の支部闘争委員会に、富永九州地方本部執行委員長代行、丸山地区本部執行委員長、沖永地区本部書記長および大坪地区本部組織部長ともに出席し、その席上、支部役員に対して、右の本部指導九項目を伝達した。これに対しては、支部役員から、上級機関は「職場を明るくする会」や役付者の意見を信用し過ぎている、右の指導九項目は事実上支部執行権を停止することになるのではないかなどという意見が出され、長時間に亘つて討論を重ねたが、結局、支部執行部としては、不満ではあるが組織上右本部指導九項目に従うということになつた。そこで、翌二日、丸山地区本部執行委員長および沖永地区本部書記長と松永支部書記長との間で右本部指導九項目の実践方法等について協議を行なつたところ、その席上、松永支部書記長から、支部執行部がこれまで支部の組織を指導してきた経過から見て、右本部指導九項目を組合員に直接印刷物で配布すると組織的混乱を起す虞れがあるので、右指導九項目は分会長会議とか班長会議等を通じて指導したいという提案がなされ、丸山地区本部執行委員長も、これを受け入れて、協議を終了した。

(8) ところが、翌一二月三日午前一〇時頃、突如、今永支部長は、丸山地区本部執行委員長に対し、支部役員二九名のうち執行委員および青年部常任委員各一名を除き、原告両名を含む二七名の辞表を一括提出した。そして、右辞表提出の理由は、組織指導上の責任を感じたというものであつた。そこで、丸山地区本部執行委員長は、当時は年末年始の繁忙対策や総選挙闘争、年末闘争終結の事態収拾といつた被告組合にとり重要な問題が山積している時期であつたので、支部執行部が空白になることは絶対に避けなければならないと考えて、同日午前一〇時頃から午後六時半頃までの間、今永支部長および松永支部書記長に対し、支部役員の辞任によつて発生する組織的混乱を防止するため辞任を思い止まるよう説得を繰り返した。しかし、今永支部長が、自分一人が勝手に辞表を撤回するわけにはいかないので他の役員と相談して翌日返答すると述べたのに対し、丸山地区本部執行委員長が、翌日午前中までに辞表が撤回されるならば事実上辞表の提出がなかつたものとして処理すると述べたに止まり、それ以上の事態の進展は見られなかつた。しかも、今永支部長は、翌四日正午頃、沖永地区本部書記長に対し、辞表を撤回しないと回答した。

(9) そこで、沖永書記長は、直ちにこのことを東京で開催中の全国地区本部代表者会議に出席していた丸山地区本部執行委員長に連絡し、同委員長は、中央本部の案納中央執行委員に対し事の次第を報告した。この報告を受けた中央本部は、当時は年末闘争収拾の段階で当局との交渉が残されていたことから、新執行部成立までの間、支部の執行業務を地区本部において代行する措置をとる必要があり、また、前記の指導九項目を含めた支部の指導体制を早急に確立することが必要であると判断して、一二月四日付で地区本部および支部に対し、指令第二二号を発した。そして、その内容は、1支部の新執行部が成立するまでの間、支部における代表権、団体交渉権、組織運営に関する業務の代行を地区本部執行委員会が行なうこと。2支部組合員は地区本部執行委員会の指示に従つて行動すること。3中央執行委員会が同年一二月一日付をもつて発した組織指導九項目を生かして支部の再建を行なうこと。4支部の財産は新執行部が成立するまで地区本部執行委員会が管理することというものであつた。

(10) 右指令を受けた地区本部は、右指令および中央執行委員会の指導に基づき、次のような基本方針をとつて支部の再建に取り組むことにした。すなわち、1地区本部と支部とが一体となつて職場闘争、組織対策に当たること。2全国大会において決定されている団体交渉重視の職場闘争路線を貫くこと。3中央本部が地区本部および支部に対して発した組織指導九項目の精神を生かすこと。4政党および他の団体に対しては、労働組合の主体性を発揮すること。5以上の四項目を支部再建の四原則とし、この原則を貫くこと。そして、支部執行部の体制を確立し、支部を再建することというものであつた。しかし、支部の新執行部体制の確立は、年末年始の繁忙時期を控え非常に困難であることが予想されたので、翌年の一、二月まで見送ることにし、取りあえず支部組合員の間で混乱が起きるのを防止するため、右指令第二二号の趣旨およびこれが発されるに至るまでの経過についてオルグを行なうことを決定した。そこで、地区本部は、一二月八日、支部の分会長会議を招集して、各分会長に対し、右指令第二二号の趣旨およびこれが発されるに至るまでの経過を組合員全員に報告して、その協力を求めることを要請するとともに、同月九日から同月一二日までの間、支部組合員に対し、対話形式によるオルグを行なつた。

(11) しかし、これに先立つ一二月五日頃から、「反合理化労働者連絡協議会」という名称で、旧支部執行部方針を支持して、そのもとに団結すべきこと、上級機関の「職場を明るくする会」についての評価は誤つていること、指令第二二号に反対することなどを訴えるビラが連日支部の組合員に配布された。(もつとも、右協議会なるものの実体は明らかでない。)また、一部の支部組合員の間から、指令第二二号は理解することができないとか、前記の指導九項目は納得することができないなどという声が出るとともに、折から年末の繁忙期であつたうえ、福岡中央郵便局の組合員本田昭男らが逮捕され、組合事務室も捜索を受けるという出来事もあつたため、現場段階まで立ち入つてオルグをなしうる状態ではなかつたので、右オルグは十分な成果をあげることができなかつた。

(12) 「職場を明るくする会」は同年一二月末までに地区本部の勧告もしくは指示により解散したものの、支部の再建はなかなか進捗せず、支部組合員の間に被告組合に対する不信の念を惹起せしめている状況にあつたことから、中央執行委員会は、支部の再建方針が九州地方本部傘下の各支部にまで悪影響を与えることを考えて、支部の旧執行部役員を含む全組合員の納得を得て早急に支部の執行部体制を確立することが望ましいと判断して、翌年一月七日頃、中央執行委員約七名を福岡に派遣し、同年二月八日の臨時支部大会開催を目途に、地区本部執行委員らとともに少人数の対話形式によるオルグを行なつた。しかし、これに対しても、支部の一部組合員が、「オルグなど受けさせるな。」、「オルグに出席するな。」、「オルグは大量に金を持つてきて買収をしている。」などというデマや中傷を流したり、「話す必要がない。」といつてオルグ中に退場したり、オルグの場所にテープレコーダーを持ち込んで、組合員が自由に発言することができないような雰囲気を作り出したり、さらに、旧執行部の支持、指令第二二号の撤回などという署名活動を行なつたりしたほか、原告両名も、右オルグによる、旧執行部が一旦辞職した以上、新たに行なわれる執行部選挙に再び立候補するのは、規約で禁じられていないとはいえ、道義上好ましくないという指導方針に反撥したり、また、今永支部長が懲戒免職後で犠救の適用を受けていたことを理由に、中央本部への配置換に反対したりしたため、中央執行委員会の行なつた右のオルグも十分な効果を収めることはできなかつた。

(13) そこで、案納中央執行委員は、地区本部に対し、組織を統一して組織の混乱に歯止めをかけるべく、支部役員の経験者、職場の主事・主任クラス、中心的な組合活動家、支部旧役員らに対して支部の臨時大会の開催と役員選挙についての協力方を要請すべきことを指導した。よつて、地区本部は、同年二月八日の臨時支部大会の開催を延期するとともに、支部旧役員に対し右の協力方を要請したが、支部旧役員は、前記指導九項目を発する以前の状態に戻すべきことおよび地区本部の行なつている指令第二二号に基づく指導に反対することを主張して、話し合いは結局物別れに終つた。

(14) このような支部再建の状況を憂慮した九州地方本部は、同本部傘下の各地区本部の代表者会議を福岡で開催して、地区本部執行委員会の再建方針を支持し、これを遂行するため、あらゆる措置をとることを決定した。そこで、この決定を受けた地区本部執行委員会は、中央執行委員会の指示に基づき、傘下全支部の三役会議を招集し、指令第二二号が発された後の支部再建方針と経過とを説明するとともに、この再建に当たつては全支部が地区本部と共同行動をとり、地区本部執行委員会が指令第二二号によつて与えられた支部再建の任務を遂行することを確認したうえ、被告組合の組合員として行動する意思を有する支部組合員の範囲を確認するため、「団結確認書」と題し、「私は被告組合の綱領、運動方針、被告組合中央本部の組織指導九項目および中央本部指令第二二号を遵守し、組織の団結を固め闘うことを確認します。」と記載された書面に各組合員の署名を集める活動を行なうことおよび支部再建の妨害者に対しては、組織統制を含むあらゆる措置をとることを決定した。そして、九州地方本部執行委員会とその傘下の各地区本部および地区本部執行委員会とその傘下の全支部は、オルグ団を編成し、福岡中央郵便局分会の組合員に対し、同年二月八日から同月一一日までの間、右団結署名活動を行なつた。しかし、これとは逆に旧執行部を支持し、右署名活動に反対する署名活動等も行なわれたため、右団結署名活動は成果をあげることができず、右期間内に集めえた署名は、福岡中央郵便局分会の組合員約五〇〇名のうち約二〇〇名に止まつた。そのため、右期間をさらに同月一六日まで延長して、支部所属組合員全員を対象とする署名活動を行なつたが、それでも約三〇〇名程度の署名しか集めることができなかつた。なお、原告村上は、右団結確認書の用紙を貰つていないし、また、原告上田は、その団結確認書の署名を求められたものの、その文言中の指導九項目の遵守をうたつた部分が腑におちず、かつ 支部大会の開催を求めたのを拒まれたため、署名を保留すると答えるに止まつた。

(二)  指令第二七号による支部組合員の資格停止および再登録

(1) 被告組合の中央執行委員会は、昭和四五年二月一七日、以上の経過を詳細に分析した結果、支部における組織紛争は、春闘前段の時期であるにもかかわらず、指令第二二号を発して以後地区本部執行委員会の諸措置に対する一連の妨害行為が行なわれ、二ケ月余の日時を経過してもなお再建についての展望が立たない現状にあり、事態がこのまま推移すれば支部組織の崩壊の危機を招くに至るものと判断し、このような事態を克服して支部を再建するため、緊急かつ非常の措置として、支部所属の全組合員に対し、次の方法をもつて対処することを決定し、同日付で指令第二七号を発した。すなわち、その方法は、被告組合規約第二三条(「1中央執行委員会は、役員(会計監査を除く。)で構成し、全国大会および中央委員会の決議を執行し又緊急事項を処理する。2中央執行委員会は、すべての決議と緊急事項の処理について必要ある場合は、中央執行委員会の議を経て中央執行委員長名による指令指示を発する権限を有し、全国大会と中央委員会に責任を負う。」)により中央執行委員会に付与された緊急事項処理の権限に基づき、指令をもつて支部組合員全員の組合員資格を一時停止するとともに、支部全組合員から、「組合員再登録申請書」と題し、「私は被告組合の綱領、運動方針、被告組合中央本部の組織指導九項目および指令第二二号を遵守し、組織の団結を固め闘うことを確認し、組合員の再登録を申請致します。」と記載された書面を同月二二日までに中央執行委員長宛に提出せしめたうえ、中央執行委員会が同月二三日から翌月二日までの間に組合員としての適格性を審査し、これに合格して再登録を承認された者を組合員と認め、なお既に前記の団結確認書を提出した者も再登録を承認されたものとして取り扱い、これらの組合員をもつて支部の再建を図るというものであつた。

なお、中央執行委員会は、右指令において、原告両名を含む支部の旧役員および青年部常任委員二三名は中央本部に敵対して組織を混乱に陥れた首謀者であるとして、これらの者につき、被告組合規約第四四条(「組合員で次の各号に該当するものは制裁をうける。一 組合の綱領、規約および組合機関の決定に違反したとき。二 組合の名誉を著しく汚す行為のあつたとき。三 組合の秩序をみだしたとき。四 〈省略。〉)および第四八条第一項(「制裁について極めて緊急なるものと審査委員会が判断した場合は、規約第四六条の定めにかかわらず審査委員会は中央執行委員会の議を経て仮りの制裁を行うことができる。」)に従い、無期限の権利停止の仮制裁を行なうことを決定した。

(2) 前記指令第二七号が発せられるや、今永旧支部長を始めとする福岡中央郵便局内の支部旧執行部役員を中心とした支部組合員八七名は、同年二月一八日、全福岡中央郵便局労働組合(略称「全福中労」。被告組合の表現に従えば、第三組合)を結成し、今永旧支部長は、同月二四日、右組合員の被告組合からの脱退届を地区本部に一括提出した。そして、右組合は、その結成宣言の中で、中央本部が指令第二七号を撤回し、右組合員らの主張する四項目(1本部は、「職場を明るくする会」問題について明確な態度をとれ。2被処分者を守れ。3組合役員選挙は立候補について制限をつけるな。4官僚統制でなく、組合員の声を聞け。)を承認すれば、同組合を解散する用意のあることを表明し、中央本部および地区本部の措置に反対する宣伝活動を開始した。なお、同組合は、綱領の中においても、指令第二七号を撤回するまで闘うと明記している。またこれとは別に、被告組合員約二〇名は、同年三月四日福岡中央郵便局労働者労働組合(略称「福中労」。被告組合の表現に従えば、第四組合)を結成した。

(三)  再登録申請手続の実施

(1) 被告組合は、前記中央本部指令第二七号に基づき同年二月二二日を申請書の提出期限とし支部組合員全員を対象にした前記再登録申請手続を実施した。そして、被告組合は、この実施に当たり、「組合員の皆さんへ」と題するビラを配布して、再登録手続につき解説したが、これによれば、再登録とは、「もう一度組合に入りなおしてもらう」ことであり、それまでの組合員資格は、「一時停止の状態にあ」る、再登録申請書を出さないと、「全逓に再び加入する意志がないものとして脱退したときと同様に組合員資格がなくな」る、申請書を「提出する機会は平等に与えられ」る、申請書を出すと、「中央本部の審査委員会の審査を経たのち、再加入が認められた人のみ組合員としての資格を全面的に復活」するのであり、「これは通常の組合加入の方法に準じたもの」である、再登録申請に対しては、「原則として全員を認めたいと思」うが、しかし、再登録申請書を出さなかつた者は、「組合員でなくなる」というものであつた。なお、中央本部が再登録申請者に対して行なう組合員の適格性審査の評価基準については、中央本部では、次のようなことを考えていた。すなわち、例えば、被審査者が「これまでの旧支部執行部のやり方がこの混乱をまねいた。」、「このような混乱状態の中にあつては、当然全体の団結をはばむ者を組合から排除すべきだ。」、「これまでの支部が悪いためかけはなれすぎていた。」、「こうなつたら全組合員が前向きで支部の再建に取り組むべきだ。」、「暴力事件や行政処分が多くおきていることを見ても分るように過激すぎると思う。」、「もつと生産性向上に賛成して、その利益を受けたらどうか。」、「階級闘争主義だと断定できないが、本部の指導と支部の指導に断層があり、組合全体としてついていけない印象がつよい。」などと答えた場合には、組合員としての適格性を「承認するだけでなく、積極的に役員などになつてほしい位である。」という総合評価をなした。また、逆にその答が、「明らかに中央本部や地区本部の組合民主主義を否定した指導にその原因がある。」、「全くけしからん。中央本部の官僚統制であり、組合民主主義の否定である。」、「地区のやり方が支部を否定したためで、必ずしも地区・支部が一体でなくてもよいと思う。」、「協力する気持はおきない。それより今永君たちの組合を統合することを考えよ。全郵政化は反対だ。」、「全く正しい。全九州・福岡地区のお手本になるような指導方針だつた。」、「全くなまぬるい方針で、もつときびしく敵と対決する姿勢がほしい。」、「資本主義体制下に労働者にしわよせにならない合理化はない。従つて合理化を粉砕する以外に労働者の生きる道はない。」、「右傾化しているので、もつと階級的な労働組合につくりかえる必要がある。」などという場合には、組合員として「とうてい承認できない。」との総合評価がなされることになつていた。なお、その中間に、「承認してよい。」、「承認してよいが、承認後もつと組合員教育をする必要がある。」、「承認するかしないか、もつと討議する必要があると思う。」などの段階をも設けていた。

(2) これに対し、原告両名は、再登録申請書用紙の配布を受けたけれども、その登録手続に反対し、かつ、組合員資格は被告組合が加入したときに既に取得しているのであるから、今さら組合員資格の取得のために右のような手続をする必要はないとして、その申請書の提出をしなかつた。なお、原告両名は、昭和四五年二月分の組合費については所属の分会で納入したものの、同年三月分の組合費については既に組合員名簿に登載されていないとの理由で徴収されなかつた。そこで、原告村上は、地区本部へ、また、原告上田は、支部へそれぞれ直接組合費を持参したが、いずれもその受領を拒否された。

(3) なお、福岡中央郵便局勤務の組合員のうち前記の全福中労を結成した者はだれも再登録申請をしなかつたので、同局勤務の組合員で再登録申請をした者については審査するまでもなく被告組合員としての適格性を有するとして全員承認されたが、福岡西郵便局勤務の組合員で再登録申請をした者については、個々に面接審査を実施した。さらに、再登録申請をしながら、審査に応じなかつた者は、前記の福中労を結成した。

(4) その後、被告組合は、適格性を承認された組合員と前述の団結確認書を提出した組合員との合計五二八名を被告組合の組合員として認める一方、原告らのように再登録申請手続に応じなかつた者については、その申請期間の経過とともに組合員としての資格を喪失したものとして取り扱うことにした。そして、右の組合員による役員選挙を経たうえ、同年三月一四日に第一五回臨時支部大会を開催して、当面の組織強化方針等の承認を受けるとともに、新執行部を選出した。かくして、前年の一二月四日に支部執行部役員が辞表を提出して以来三ケ月有余に亘つて混迷を続けて来た支部は、漸く新たな出発をすることになつた。

三本件における被告組合の組合員の再登録手続は、以上のような経過を辿つて実施されたものであるが、ここで被告組合における再登録手続の性格について検討する。

1  まず、被告組合の現規約第二三条第三項には、中央執行委員会の権限として組合員の再登録手続なるものが明文化されていること、そして、これは昭和四九年八月二八日に開催の全国大会において可決された規約改正の際に盛り込まれたものであることは、当事者間に争いがない。なお、これを今少し詳しく見るに、〈証拠〉によつて認められる昭和四三年八月三〇日付改正施行の被告組合規約と〈証拠〉によつて認められる昭和四九年八月二八日付改正施行の被告組合規約とを比較すると、前者の第二三条第三項が後者の第四項に繰り下り、新たに同条第三項として、「中央執行委員会は、組合員の再登録および各級機関の執行権を停止する権限を有し、全国大会と中央委員会に責任を負う。」との規定が新設されたことを看取することができる。しかし、被告組合の旧規約および現規約中には他に再登録手続に関する文言あるいは規定を見出すことができないので、本件再登録申請手続実施の昭和四四、五年当時には、未だこのような規定や文言が規約上になかつたことは明らかである。

2(一)  もつとも、被告は、本件に関して実施された組合員の再登録手続は、規約上に明文化される以前から被告組合の確立された慣習となつていたと主張するので、この手続の沿革について調べるに、まず次の事実は、当事者間に争いがない。

(1) 東京地区本部羽田空港支部に対して、被告主張のような昭和三八年一一月二七日付中央本部指令第一一号が発され、組合員一九八名が規約確認書を提出したことおよび被告主張の日に同支部の再建大会が開催されたこと。

(2) 東京地区本部石神井支部に対して被告主張のような昭和四〇年一一月二〇日付中央本部指令第七号が発されたこと。

(3) 東京地方本部練馬支部に対して被告主張のような昭和四三年八月七日付中央本部指令第四八号が発されたこと。

(4) 兵庫地区本部が、西阪神支部西宮郵便局分会に対して、昭和四一年九月三〇日付全逓兵庫企第二四号指導文書を発し、さらに同年一〇月六日付中央本部指令第一〇号を発したことおよびそれらの内容がいずれも被告主張のとおりであつたこと。

(二)  そして、右の争いのない事実に、〈証拠〉を総合すると、次の事実を認めることができる。

(1) 前記各支部あるいは分会に対する前記各指令あるいは指導文書が発される前後の経緯は、被告主張のとおりであつたこと。

(2) 前記羽田空港支部の場合は、組合員が規約確認書を提出しただけなので、審査・承認等の組合員資格に関わる問題は生じなかつたこと、前記石神井および練馬各支部ならびに西宮郵便局各分会の場合は、殆どの組合員が再登録申請書を提出し、そして、審査の結果直ちに組合員資格を承認された者はもとより、その承認を一時留保された者も、中央本部の再三の説得の結果最終的には全員が承認を得て組合員資格を回復したこと。

(3) 再登録申請をしなかつた組合員のうち病休等のため申請書を提出することができなかつた者については、健康の回復等を待つてその提出を取り付けたこと、他方、中央本部の方針に反対の意見を持ち、中央本部の説得にも飜意しなかつた者は、極く少数に過ぎなかつたのみならず、それらの者はむしろ積極的に被告組合から脱退する意思を表明し、その旨の届を提出したので、被告組合としてはそれを受理したこと。

(4) 結局、前記のいずれの場合においても、再登録申請書を提出せず、かつ、脱退届も提出しなかつた者は一人もなかつたこと。

(三)  以上の経緯を通じて考えるに、たしかに被告組合においては、過去にも再登録等の文書を用いた措置がとられた二、三の先例があり、そして、これらはいずれも中央委員会が、組織上の混乱の発生というその時々の状況に応じて、規約上に明文の定めのない方法を窮余便宜的に考案し実施したものであつて、その点では本件再登録申請手続の実施と符合する点がないわけではない。しかし、これらの全事例を通じて見ても、再登録申請をしないことの直接の効果として当然に組合員資格を喪失したという事例は皆無であつたのであるから、組合員資格の喪失が最大の争点となつている本件事案にこれらの先例をそのまま当て嵌めて考えることは相当でないというべきである。また、これらの先例について、緊急事態収拾の手段あるいは単一組織における上級機関の下級機関に対する統制問題としてその当否を論ずるのはともかく、これだけで再登録申請手続が被告組合の組合員資格の得喪の原因として既に確立された慣習であると断ずることは到底できないものというべきであり、他にそのことを認めるに足りる証拠はない。

四そこで、組合規約上の明文の根拠規定ないし確立された慣習がないのにかかわらず、原告らが本件再登録申請をしないことの直接の効果として組合員の資格を喪失するかどうかについて検討する。

1  まず、被告組合の組合員資格の得喪に関する組合規約の規定について一瞥するに、組合規約第四四条が、組合員の制裁につき、「組合員で次の各号に該当するものは制裁をうける。一、組合の綱領、規約および組合機関の決定に違反したとき。二、組合の名誉を著しく汚す行為のあつたとき。三、組合の秩序をみだしたとき。四、正当な理由がなく組合費および準組合費の納入を三ケ月以上滞納したとき。」と規定していること、同規約第三五条が、組合員の資格につき、「組合員の資格は規約第五条による郵政労働者であつて規約第三六条により組合に届出をし、中央執行委員会の承認を得たときにはじまり、規約第三九条による脱退または除名されたときに終る。2 組合員はいかなる場合といえども、人権、宗教、信条、性別、門地または身分によつて組合員たる資格を失わない。」と規定し、同規約第三九条が脱退につき、「脱退は次の場合による。一、退職二、死亡 三、除名 2〈省略〉 3 前項以外の理由により脱退しようとする者は、脱退の理由をあきらかにし、支部に申し出で、地区本部、地方本部を経由して中央執行委員会の承認を必要とする。4〈省略〉。」と規定していることは、いずれも当事者間に争いがなく、また、〈証拠〉によれば、同規約には、次のような名規定のあることを認めることができる。

(一)  第三六条(加入)「組合へ加入しようとするものは、綱領、規約を認めた旨の誓約書と、組合費月額相当額をそえ、所在の支部に申し出で、地区本部を経由して、中央執行委員会の議を経てはじめて組合員となる。2 中央執行委員会は、組合員となることを決定した場合は組合費領収書を添付して本人に通知しなければならない。

(二)  第四五条(審査委員会)「前条の制裁を審査するため、中央本部に審査委員会をおく。審査委員会の運営および構成は別に定める審査委員会規則による。」

(三)  第四六条(制裁の種類と決定)「第四四条に基く制裁は警告、権利停止、除名の三種とする。2 除名は支部または地方決議機関の決定により、地方本部執行機関或いは決議機関の賛成を経て、別に定める審査委員会に申請し、その答申により中央執行委員会の議を経て組合の決議機関の承認をうけなければならない。この決議は出席構成員の直接無記名の秘密投票による三分の二以上の賛成を必要とする。3〈省略〉」

そして、以上の他に組合員が一旦取得した組合員資格を喪失する原因等について触れた規定は見当たらない。

2  以上によれば、被告組合の規約上は、組合員がその意に反して組合員資格を喪失するのは除名の制裁を受けたときを除いて他にないことになるのであるが、被告組合を構成する組合員につきそのもつとも重要かつ基本的な事項というべき組合員資格の喪失に関する規約の解釈については厳格な態度を貫くべきであつて、組合員は右規約に規定する除名の事由および手続によらずしてはたやすくその資格を奪われないことを保障されているものと見なければならない。

3ところで、被告は、原告らが再登録申請をしなかつたことにより組合員としての資格を喪失したと主張するが、その主張自体の意味も必ずしも明瞭でない。すなわち、まずそれは、原告らが前記指令によつて命ぜられた再登録申請義務に違反したことの直接の効果として組合員資格を喪失したとするのか、それとも原告らが再登録申請手続をしなかつたことに基づき組合員資格を放棄し、あるいは組合から脱退したと看做すのかは必ずしも明瞭でないが、前者であるとすれば、まず中央本部の指令のみによつて組合員に対しこのような義務を課することができるかどうかが大いに問題であるのみならず、仮にこれを肯定することができるとしても、その義務違反が統制の問題を生ずるのはともかく、それ以上に、他の何らの手続をも践むことなく、当然に組合員資格の喪失の効果を生じると解することは困難である。

また、後者であるとすれば、全福中労や福中労を結成した者の如く、被告組合とは全く別個の労働組合を結成した者につき、そのような組合結成の行為を目して既に被告組合から離脱したものと評価し、たとえその旨の届出がなくても組合員資格を放棄したとかあるいは被告組合から脱退したものと看做しても格別不合理ではないが、しかし、そのような積極的な行為をしていない者についてまで、これと同様に解するのは相当でない。特に、前記認定のとおり、原告らにおいては、組合員資格の放棄あるいは組合からの脱退の意思は全くなく、むしろ依然被告組合に留ることを明言しているのであるから、再登録申請をしなかつたとうい一事だけで、その反対の意思の存在を擬制することは許されないといわなければならない。

もつとも、再登録申請が、羽田空港支部における規約確認書提出の場合と同様に、その申請書をすべて組合員として取り扱うものであれば、再登録申請書の提出自体は組合員にとつていわば一挙手一投足で足りる事柄であるだけに、このような極めて僅かな行為をも敢えてしなかつた者については、組合員資格の放棄あるいは組合からの脱退の意思の存在を擬制するという効果を導く余地も全くないとはいえない。しかし、本件においては、再登録申請書提出の他に、前記のような厳しい評価基準を設けた審査の段階が予定されているのであり、その審査の結果によつては、再登録申請書の提出者であつても中央執行委員会の承認を得られるとは限らないのであり、特に原告らのように支部の旧執行部に属していた者あるいはその同調者については、指令第二七号が発されるに至つた対立抗争に関して中央本部の方針を積極的に支持しない限り、到底承認を得られないであろうことは、弁論の全面旨に徴しても、十分に予測しうるところである。従つて、再登録申請書の提出を些細な行為と見て、その不提出の事実だけから直ちに組合員資格の喪失という効果を導き出すことは困難というべきである。さらに、再登録申請書を提出した者は一応被告組合に留る意思を積極的に表明したものと見ることができるにもかかわらず、そのうち審査の結果承認を拒否された者については、組合員資格の放棄あるいは組合からの脱退の意思の存在を擬制するということは、あまりにも事実から乖離した擬制であるというほかない。

なお、資格の審査については、〈証拠〉によれば、支部における審査の結果登録の承認を拒否された者はなかつたことが認められるけれども、それは前記認定のように結果的にたまたまそうなつただけのことであつて、審査の結果を予測したりあるいはこれに反対したりして審査を受けなかつた者もあるのであり、また審査の結果一時承認を留保された者もあるのであるから、右のような事実が認められるからといつて、にわかに本件の審査を軽視してもよいということにはならない。また、〈証拠〉の一部には、審査は単に再登録申請の意思を確認するだけのものであつたという部分もあるが、この証言も、〈証拠〉に照らして採用することができない。

さらに、〈証拠〉によれば、中央本部の中央執行委員の一人であつた同人は、再登録申請とは、中央執行委員会がかつて受理していた被告組合への加入申請を一旦各組合員に返却し、改めて各組合員につき被告組合に留るかあるいは脱退するかの選択を問うものにすぎないと考えていたことを窺うことができる。そして、これは、中央執行委員会が一旦行なつた組合加入の承認(前記規約第三五第三六条)を撤回して、その加入を承認するかどうかを再検討するという趣旨であると考えられる。しかし、前記規約に定められた組合加入とその承認は、それが一旦なされれば完全かつ終局的な効果が生じるのであつて、後日に至つてその加入を撤回したり承認を撤回したりすることにより一旦生じた加入の効果を覆滅させることはできないものというべきである。

従つて、被告の主張する理由をもつてしては、原告らにつき再登録申請書の不提出の事実から組合員資格の喪失の効果を導き出すことはできないものというべきである。

4  以上に説示したところからすれば、本件に関してなされた再登録手続は、実質的には、中央本部による支部旧執行部とその同調者の選別およびその排除を目的とした手段であつたといわざるをえない。そして、それは、組合員の意思に反して組合員の資格を最終的に剥奪するものであつて、その効果からすれば、統制処分としての除名と異ならないというべきであるが、組合員を除名するためには、前記規約に明記されているとおり、それ相応の要件の具備と慎重な手続の履践とが必要であると解すべきである。たとえ一般に労働組合の規約上に明文の規定がなくても組合員に対する統制処分が可能であるとの見解に従つたとしても、一方で規約上に統制処分の要件および手続についての明確な規定を置いていながら、他方でこれと同視すべき処分をその要件および手続によらないで行なうことを認める余地はないものというべきである。さもなければ、規約所定の要件および手続をことさらに省略し潜脱して、より簡易に同一の目的を達することを容認するという甚だ不当かつ不合理な結果を承認せざるをえないことになるからである。

なお、前示認定のように、本件の再登録申請手続実施の結果については、後日全国大会の承認を受けてはいるけれども、その承認と除名の手続とを同視することはできないから、この事実から直ちに原告らにつき除名と同様の組合員資格剥奪の効果が生じたものということはできないし、また、右再登録申請手続が被告組合における組織上の混乱収拾のための非常緊急の措置であつたとしても、そのことが直ちに除名の要件および手続の潜脱を正当化する理由とはなりえないものというべきである。

そうだとすれば、原告らが本件の再登録申請を所定の期限内にしなかつたことだけを理由として、被告が原告らの組合員資格を剥奪することは許されないものといわなければならない。

そして、本件の全証拠を仔細に検討しても、右再登録申請手続による原告らの組合員資格の喪失あるいは剥奪を正当化すべき他の事由は見当らないし、さらに、原告らがその他の事由で組合員資格を失つたことについては、被告が何ら主張立証しないところである。

5  以上に検討したところからすれば、被告の抗弁はその理由がないといわなければならない。

五してみれば、原告らは現在もなお被告組合の組合員としての資格を有するものというべきところ、被告がこれを容認していないことは明らかであつて、原告らのその資格の確認を求める本訴請求は理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(奥村長生 富田郁郎 林豊)

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